その人の家は、いわゆる“古戦場跡”のど真ん中にありました。
今ではすっかり新興住宅地と変化しておりますが、血生臭い歴史の眠る住宅街でした。
その頃を象徴するかのように、駅前に建つ“戦没慰霊祠”。
そこからゆっくりと坂道を登っていった所に、その家はありました。
彼は一人っ子で、お父さんは当然仕事、お母さんは趣味のテニスで家を空ける事が多かった為に、私はほぼ毎日転がり込んではひと時を過ごしていました。
彼の家は2階建て。
1階 の居間で和やかにTVなんぞ見ていると、2階からかすかな音が…。
チャリ…チャリ…
最初はこの程度の、誰かが小銭をいじくっているような音。
何を気にするでもなく、その音を聞き続けていました。
しかし。
何か様子がおかしい…。
そう思っている私の不安感と比例するように、徐々に大きくなっていく、その音。
終いにはジャララララ!!という、大きな鉄板がぶつかり合っているような音に変化したのです。
音が大きくなると同時に、まるで全力疾走しているかのようなドタドタドタ!!という音も聞こえるようになりました。
そう、それはまるで“鎧”を着た人間が走っているような…。
音は、断続的に聞こえました。
2階の端から端まで全力疾走した後立ち止まり、暫くしたらまた走り出す、“鎧”…。
2階に何かいるよ…。
と彼に言ってみても、案の定
え??何も聞こえねぇぞ??
という答えが返ってくるだけ。
そう、その音は私だけにしか聞こえていなかったのです…。
聞こえ始めてからは、彼の家に行くと2〜3回に1回は必ずその“音”を耳にするようになりました。
ただ、敢えて怖がらせるのも悪いと思ったので、私も敢えて言いませんでしたが…。
結局、その音の原因には突き当たる事が無いまま、彼とは別れてしまいました。
彼の家はT字路の交差点のど真ん中、つまりは道の突き当たりに位置しています。
噂によると、そういう場所にある家は通り道にされ易い…との事。
“古戦場跡”という土地柄も相まって、そのような現象が起きてしまったのでしょう…。
この間、ちょっとだけ用事があって、久々に彼の家の真正面を車で通りました。
その時は一瞬だったので確認出来ませんでしたが、あの音はまだ聞こえているのでしょうか…??