大学のサークルでキャンプに行きました。
場所は神奈川県寒川町。神奈川北西部に位置する静かな街。
そこに【オートキャンプ場】がある、ならばみんなで行こう…という話になりました。
20人位の大所帯でした。
人数が人数なので、荷物も結構な量。
その為、“車を出せる人は出そう”という話になり…私も、その1人として車を出す事になりました。
(家の車だったんだけど、ウチ、平日は車使い放題だったので…。)
一通り騒ぎ、宴会も一段落し…誰が言うともなく
よっしゃ、ドライブ行くべ、ドライブ。
という話になり、5人乗りの私の車に無理やり6人乗り込み、暗い山の中へと出発したのです。
当時は免許取って間もない私。当然土地鑑なんぞありません。
助手席に座った友人のナビで
次右ね〜。
あ、その次左ね〜。
と、言われるがままに車を駆っておりました。
車はどんどん、薄暗い山道に入っていきます。
それと同時に…妙な息苦しさが襲ってきました。
例えるならば…周囲の空気がゼリーのような粘性を持ったような…。
息をするのに空気を飲み込まなくてはいけないような…。
何か…嫌な予感がする…。
そう感じた私は、助手席に座っていた友人に問い掛けました。
あんたら…今何処に向かってるん??
え?? 虹の大橋〜♪
えっ…。
場所は知らなかったけど、名前だけは知っていました。
そして、そこが自殺の名所であり、どんなに危険な場所か、そして何が起きているかも…。
でも、もうここまで来ちゃって、今更“戻ろう”なんて言えません。
場を 白けさせるのも悪いですし…。
覚悟を決めて向かう事にしました。いつも以上に気を張って…。
途中で事故があったりして、
ヤダなぁ…。
とは思っていたものの、引き返す訳にも行かず…とうとう宮ヶ瀬ダムに到着しました。
うねうねした道の向こう、ヤツがライトアップされて私達を待ち構えてました。
漆黒の闇の中に照らし出される、横たわる大蛇のような橋。
それが、【虹の大橋】です。
橋に差し掛かりました。
そして、その瞬間から…網膜に焼き付いて離れない程のショックを覚える事になったのです。
差し掛かった途端見えたのは、橋の内・外関わらず無数に浮いてる人影。
中には崩れかかった、“人のような物”としか言えない様なモノまで…。
ヒッ…!!!
同乗の友人に一言、
突っ切るよ!!!
とだけ言い残して、私はアクセルを強く踏み込みました。
ご存知の方は多いと思いますが、虹の大橋はうねうねと曲がっている訳でもなく、逆に“完全な直線道路”と言った方が正しいかも知れません。
そしてその時、風は橋の内側に向かって吹いていた筈でした。
スピードを上げた直後、ハンドルが“がくんっっ!!”と重くなったと思った途端、しっかり握ってるはずのハンドルがどんどん外側、つまりは橋の外に引っ張られるのです。
ヤバイ!!呼ばれてる!!!
私1人だけならまだしも、他に5人が同乗してるんです。
ここで私の力が負けてしまった時…それは即ち、他の5人を巻き添えにした“死”を意味するのです。
負ける訳には行きません。
心の中で早九字を切り、ハンドルに力を込めて運転しました。
外に流れる力はどんどん強くなります。
次第に腕に力が入らなくなり、腕がプルプル震えてきて、
限界…か…??
と思った瞬間に、ハンドルの力がふっと抜けました。
そう、ギリギリで橋を渡りきったのでした…。
帰り道は、皆言葉少なでした。
キャンプ場に着いた途端、疲れが“どっ”と出てきて、私は煙草を1本吸っただけで泥のように眠ってしまったのでした。
今思えば…あの時、何も背負ってこなくて良かった、誰も何も持ち帰らなくて良かった…。
あそこでは、数年前の流星群の時に、何人かが橋から落ちて亡くなったとの事。
私が思うに…人混みもそうだけど、何者かに魅入られてしまったのも原因の1つではないでしょうか。
だって…あそこは自殺がこれ以上起きないように、とても高い柵が橋いっぱいに張られてるんですから。
あれを乗り越えるなんて…何か他の力がかからないと無理なのでは…??